統合報告書 2020(2020年9月1日発行)より

PMIが完了し、マーケットリーダーとしての地位を確固たるものとしたことで、メディアドゥグループは新たな成長のステージに立ちました。「ポジション」と「テクノロジー」という私たち独自の強みを活かし、出版市場のさらなる発展に挑みます。


代表取締役社長 CEO 藤田恭嗣


#1   経営における価値観
他社とは比較できないオリジナリティのある価値を追求すること。これが私の経営における原点です。


代表取締役社長 CEO 藤田恭嗣 私がはじめて事業を興したのは今から27年前、大学に在学していた二十歳の頃です。大学から社会へと出る人生の大きな転機を前に、他者とは異なる道が自らの活路と思い至り、新たな道の第一歩として自ら事業を興すという可能性に挑戦しましたが、当時の私は経営の右も左もわからない未熟な状態であったと思います。しかし、当時から私自身に息づいている「確固たる意志をもって決断する」「他の人ではできない価値をつくり上げる」といった経営の判断軸となる価値観は全て、これまでのメディアドゥの経営にも受け継がれています。2004年に音楽事業を始める際も、2006年に電子書籍事業に参入する際も、業界での後ろ盾も実績もないゼロベースでのスタートでしたが、この価値観こそが新たな事業を切り開く原動力でした。

また、電子書籍流通事業のスタート時には、他社といかに異なるポジションをどのような戦略で築くか、いかに「シェア」を獲得するかという視点から、ビジネスモデルのあり様を考え抜きました。変化の激しいビジネスの世界では、「シェア」を獲得し自ら市場を変革し続けなければ、いずれ技術革新によって淘汰されます。そして辿り着いた答えが、従来の出版業界には存在しなかった、最先端のテクノロジーを活用したSaaS志向のビジネスモデルによって、電子書籍流通における中間としての独自のプラットフォームを目指すという現在の姿につながる事業構想です。これこそが当社が他の企業とは全く異なる「ポジション」を築くことができた要因だと断言できます。目に見える業績が同じでも、その数値を達成する仕組みは外からは見えません。この仕組みを練り上げ、真似のできない事業をつくるための戦略をいかに見出し、実行するかということこそが、経営の根幹であると考えています。


#2   メディアドゥが目指すべき方向性
想像を上回る市場拡大を実現するためには、既存の枠組みに囚われない挑戦を続けることが重要です。


現在、スマートフォンなどの電子デバイスの普及とそれに伴うユーザーのライフスタイルの変化、並びに電子書店や出版社による提供コンテンツ、キャンペーンの増加の双方の要因が相まって電子書籍流通市場は当社の予想を上回る速度で成長を遂げています。とりわけ国内コミック市場では6割以上を電子書籍が占めるまでに拡大し、今後も市場拡大のトレンドは継続していくものと見込んでいます。小説や教養書といった「文字もの」の市場においては、電子書籍の割合が現状5%程度にとどまっていますが、米国や中国では出版市場の30~40%を電子書籍が占めており、今後国内市場でも拡大が期待されます。特に、今回の新型コロナウイルスを契機として作家や出版社がこれまでの紙中心の出版を見直す動きもあり、紙から電子への移行はこれまで以上に進んでいくものと見込んでいます。

一方で、私たちが見据えるのは既存の電子書籍流通の枠組みにおける拡大余地だけではありません。現在の電子書籍市場には、テクノロジーやリーダーシップの発揮によって一段と進化を遂げることのできる余地が数多く残されていると強く感じています。デジタル化の進展によって、コンテンツ流通に携わるあらゆる人々のコンテンツへの関わり方には変化がありました。一方、プラットフォームの転換が進んだだけで本質的な部分は変わっていないという声をお聞きすることもあります。しかし、私たちは、世間の想像を超え、誰もが思いもしなかったアプローチや事業に挑むことによって従来不可能とされていたことを実現し、電子書籍市場の一層の成長を可能にする存在でありたいのです。なおかつそれが出版業界とともにさらなる発展に向けて手を取り合うことができるものであることが重要です。私たちの挑戦によって電子書籍市場と出版市場全体が拡大し、コンテンツに関わる全てのステークホルダーを笑顔にする。これこそが、私たちが中期経営計画で掲げる「Publishing Platformer」のあるべき姿だと考えています。


#3   2020年2月期の総括
事業展開、組織構成ともに新たなステージに挑む準備が整いました。


2020年2月期の当社グループは、とりわけ本業である電子書籍流通事業の好調により、売上高が658億円となり、2018年7月に策定した中期経営計画の売上目標を1年前倒しで達成することができました。これは、電子書籍市場の拡大が追い風となったことに加え、大手海賊版サイトが2018年4月に閉鎖したことにより、影響を受けていた取引先の売上が回復したことによるものです。さらに営業利益は18.5億円、EBITDAは26.6億円と、大幅な増収増益を達成することができました。

期初に掲げた重点施策についても、進捗の成果が着実に表れています。電子書籍流通事業においては、かねてより取り組んできた電子書籍流通のクラウド型基幹システムの開発と移管が完了したことで、業務運用の効率化に加えてパフォーマンスや拡張性、冗長性を強化することができました。また、ブロックチェーン技術を用いた新流通プラットフォームの実現に向けた技術開発についても、2021年2月期第3四半期の新サービスの立ち上げに向けた準備が着実に整いつつあります。その他事業においても、ビジネス書要約サービス「フライヤー」において、法人・個人ともに会員数が大幅に増加したほか、2019年に買収した世界最大級の日本アニメ・マンガコミュニティサイト「MyAnimeList」におけるPMIの着実な進展、さらには当社グループで電子書籍の特長あるパブリッシング機能の提供を担う「インプリント事業」を開始するなど、新たな収益の柱の確立に向けた種まきが進みました。

加えて、2017年3月に実施した(株)出版デジタル機構の子会社化以降継続して取り組んできた組織統合のプロセスが一段落したことは、当期の最も大きな成果の一つだと評価しています。これにより、当社グループは2020年6月より、(株)メディアドゥとしてグループ一体の組織体制となりました。今回の統合によって、新たな挑戦へと踏み出すための基盤が整いました。

これらの成果を踏まえ、当社グループでは、中期経営計画の発展的な見直しと再検討を実施するとともに、同年9月には、現在の市場環境と本業の好調を一層の事業拡大を実現する好機と捉え、成長加速に向けて新たに追加投資を行うことを決断しました。これにより、5年先、10年先を見据えた中長期的な視点で一段と高いレベルで事業成長を実現し、出版業界全体の活性化に向けた施策を一層加速することで、株主・投資家の皆様や電子コンテンツに関わる全てのステークホルダーの皆様の期待にお応えしていく考えです。


#4   2021年2月期の注力施策
「Publishing Platformer」の実現に向けた変革を一段と加速します。


代表取締役社長 CEO 藤田恭嗣

当期の成果とこれまでの助走期間を経て、今期は、本格的に新たな価値の創造へと踏み出す最初の1年と位置付けています。しかしながら、当社グループが目指すべき大きな方向性はこれまでと変わりません。最大の強みである「ポジション」と「テクノロジー」を最大限に活用し、既存の仕組みにおける電子書籍市場拡大を支援する「Legacyを作る」、先端技術活用によりさらなる市場拡大に取り組む「Legacyを創りに行く」、そして「事業拡大に向けた積極的な投資実行」の3つの方針に継続して取り組み、「Publishing Platformer」の実現に向けた変革を加速させます。

「Legacyを作る」においては、本格稼働を開始した新たな取次システムの追加開発を実施します。実際にシステムを運用する中で出版社や電子書店から寄せられたニーズを踏まえ、利便性の向上や負担軽減に取り組むことで、電子書籍流通においてさらなるシェアの拡大を目指します。また、新システムと並行して運用している旧来のシステムについては、新システムの運用が軌道に乗ったことを見定めたのち、2021年2月に完全停止する予定です。これにより、3.5億円のコスト削減効果を見込んでいます。また、今般の電子書籍市場の拡大を踏まえ、クライアントのニーズに応えるシステム開発等に活用すべく、当社が運営している電子書店「コミなび」に関して、3年後の大幅な黒字化を視野に積極的な投資を行う予定です。

「Legacyを創りに行く」の領域では、新たなデジタルコンテンツの配信モデル、アセットモデルの構築に挑みます。当社グループが提唱する「Digital Content Asset (DCA)」の真価は、ブロックチェーン技術を活用し、従来のデジタルコンテンツでは存在しなかった“個数”の概念を導入することで、私たちはインターネット上に溢れる膨大な量のデジタルコンテンツをリアルの世界における車や土地のように、アセット(資産)化していきたいと考えています。インターネット上のデジタルコンテンツにおけるビジネスモデルは大きく分けて2つあります。一つはコンテンツ自体が有料、もしくは利用量に応じた広告収入を対価とするコンテンツ販売モデルと、定額かつ一定期間無制限で利用可能なサブスクリプションモデルです。双方とも利用者にとっては価値の高いサービスですが、新型コロナウイルスの感染拡大によってリアルの領域が制限される中、著作権者やアーティストといった創作者にとっては、従来のマネタイズ手法やビジネスモデルの継続、活動そのものが困難な状況となっています。こうした状況下、そして今後を見通しづらい中だからこそ、私たちはデジタルコンテンツの3つ目のビジネスモデルとしてDCAモデルを世に提唱したいと考えています。利用者にとっては今まで消費対象でしかなかったコンテンツを資産化することで、アーティストなどの著作権者にとっては第3の新しいデジタルコンテンツビジネスとなります。

「事業拡大に向けた積極的な投資実行」においては、「フライヤー」「MyAnimeList」「インプリント事業」を中核に据え、引き続き出版業界全体の活性化に資する事業へと積極的に投資を展開する考えです。当期に好調であった「フライヤー」については、2023年2月期に100万会員獲得を目標として、一段と広告展開を強化していきます。「MyAnimeList」については、アセットモデルの展開をはじめとして既存ビジネスとの連携をさらに加速させます。「インプリント事業」においては、出版市場の売上の70%を占める中小出版社のデジタルトランスフォーメーション(DX)を後押しする業務システムの創出やインプリントレーベルの拡充、IPの映像・音声等他メディア展開に取り組むことで、出版業界全体の活性化・底上げに取り組んでいきます。


#5   経営基盤の強化
「Publishing Platformer」への挑戦に向けて、着実に準備を重ねてきました。


価値創造の基盤となる組織力の強化にも継続して取り組んでいます。当社グループでは、(株)出版デジタル機構を子会社化した2017年当初より、2020年までの3年間でPMIを完遂させる計画で、段階的に統合を推進してきました。この統合は、大きく分けて「経営統合」「事業統合」「意識統合」の3つの柱で進めてきました。

まず、「経営統合」について、旧(株)メディアドゥが出版デジタル機構を子会社化した当時、ともに電子書籍取次事業が主軸事業ではあったものの、両社の社風、制度、組織、システムなど様々な領域で差異が見られました。そのため、すぐに両社を一体運用するのではなく、まずは持株会社である(株)メディアドゥホールディングスの子会社として旧メディアドゥと出版デジタル機構を置き、徐々に統合を進めていきました。事業やシステム、制度面での統合が進むにつれ、子会社メディアドゥと出版デジタル機構を2019年3月に合併、そして2020年6月、経営判断の迅速化や運営コスト削減による経営効率の改善を実現すべく、メディアドゥホールディングスとメディアドゥを合併することにより、経営統合を完遂することができました。さらに、2020年6月からは役割権限を明確にし、経営と意思決定スピードの向上を図るため、業務別に執行責任者(CxO)を配置し、新経営体制へと移行しています。

「事業統合」においては、いかに両社のシステムを統合するかが最大の課題でした。当社のシステムは電子書籍流通の根幹を成すものであり、不具合が生じると出版社、電子書店の双方に多大なる影響を及ぼす可能性があります。両社のエンジニアと営業が一体となって議論を重ね、ほぼ計画どおりにシステム統合の目途が立ち、安堵するとともに組織力の向上が感じられました。また、これにより当社は獲得した圧倒的なシェアを背景に電子書籍市場の拡大を加速させながら、いかに出版市場を活性化するか、という命題に注力することができるようになりました。引き続き、自らを変革し、先端技術に裏付けられた新たなサービスを提供することで、より多くの本が読まれる世界を実現していきたいと考えています。

そして、統合の総仕上げとして重要だったのは、「意識統合」です。組織が一丸となって社会にイノベーションを創出し、持続的に成長を果たしていくためには、社員の一人ひとりが「自らが何のために集い、目の前の行動をしているのか」を理解し、全体を俯瞰して眺められるようなチームであることが重要です。一方で、当社グループは組織として急速に成長したこともあり、こうしたアイデンティティを隅々まで浸透させることの難しさも経験してきましたし、役職員が自走していくことができる枠組みを整える必要も感じていたのです。だからこそ、今回のPMIのプロセスが最終段階を迎えるにあたって、新しいメディアドゥの求心力となる価値観(バリュー)を設けました。バリューの策定にあたっては、旧メディアドゥ、旧出版デジタル機構といった異なるバックグラウンドを持つメンバーから構成するプロジェクトチームを立ち上げ、社員全員が理解、納得できるものとなるよう徹底的に議論を行うとともに、新たな人事制度において評価制度・給与制度へと組み込んだほか、私自らが設計した新制度導入の背景と目指すところを全社員に説明しました。導入初年度となる今期は、実際の運用を経て実態に即した形で改善を図る途上ではありますが、浸透に向けた手応えを着実に感じています。


#6   サステナビリティに関する考え方
ミッション・ビジョンを突き詰めて実践していくことで、社会課題の解決と持続的な成長の両立を果たします。


代表取締役社長 CEO 藤田恭嗣

2015年に採択されたSDGs(持続可能な開発目標)に代表されるとおり、現代の企業は社会的な責任を果たすことに加え、事業を通じて社会課題解決のための創造性と革新性を発揮することが求められています。同時に、ESGの観点も交えて事業機会とリスクを適正に把握し、継続的に取り組んでいくことは、当社グループ自身が中長期的な視点で持続的に成長を果たすために必要不可欠なものだと捉えています。これはサステイナブルな社会とは何かを考え、経営に組み込むことに他なりません。当社の企業理念の原点である日本国著作権法第一章 総則の第一条には、「著作物は文化の発展に寄与する」「著作物の利用と保護の調和」が謳われています。これもその本質は、作品を生み出す作家やアーティストのさらなる創作意欲を持続可能なものにし、かつ生み出された作品をたくさんの利用者が楽しめる仕組みづくりが豊かな文化と社会の発展につながるということを示すものだと捉えています。つまり、メディアドゥが果たすべき社会的使命とは、デジタルをベースとしながら新しい著作物が生まれ続ける仕組み(サイクル)をつくっていくことです。

私は、企業が果たすべき本質的な役割というものは世の中の困りごとを解決していくことであると捉えています。ゆえに、メディアドゥだからこそできること、つまり私たちが持つ電子書籍市場における「Position」と「Technology」という強みを活かし、著作者や出版社、電子書店にコンテンツのユーザーと、電子コンテンツに関わる全てのステークホルダーの困りごとに対して真正面から取り組んでいくことを通じて、社会課題の解決と持続的な成長の両立を果たしていく考えです。


#7   最後に
実際に新たな成長ステージへと踏み出してみると、想像以上の可能性が広がっていることを肌で感じています。


当社グループでは、これまでも企業理念を実現すべく、私たちの情報流通プラットフォームを通じて、魅力的な作品が世に出続ける循環をつくり、人々の生活を豊かにすることに挑み続けてきました。一方で、これまでの成長ステージにおいては、私たちが「Publishing Platformer」としての理想像に本格的に挑むための足掛かりとして、業界に関わるステークホルダーの皆様から話に耳を傾けていただけるだけの信頼感を得る、企業としての確固たるアイデンティティを構築するなど、攻勢に転じるための企業体質強化や財務基盤といったプレゼンスの確立に注力する必要があったことも事実です。そして今、ようやくグループ一体となった「ONE MEDIA DO」として、かねてより社内外に発信してきたスタート地点に立つことができました。実際に新たな成長ステージへと踏み出してみると、私がこれまで想像していた以上の可能性が広がっていることを肌で感じています。現在の当社グループは、既存の事業領域における成長によって、売上高1,000億円に至るための手応えを十分に感じられるところにまで来ています。2020年6月には株価が6年4カ月ぶりに上場来高値を更新し、時価総額も700億円弱となりました。今後もグループ一体となってさらなる企業価値向上と社会の発展に向けて邁進します。株主・投資家をはじめとするステークホルダーの皆様におかれましては、業績の成長はもちろんのこと、今後の私たちが展開する戦略、サービスの可能性に、ぜひご期待ください。

2020年6月
株式会社メディアドゥ
代表取締役社長 CEO
代表取締役社長 CEO 藤田恭嗣


RECOMMEND
株式会社メディアドゥ 統合報告書 2020

・報告対象期間:2020年2月期(2019年3月1日〜2020年2月29日)
・PDFファイル:14.4MB